2名の登山者との情報交換の後、しばらくすると林道との出合に出ました。何台もの赤い消防の車両(ライトバンサイズ)が停車しており、御所、吉野、天川などと車の所属が記されているところをみると、これは近隣の消防が総力で遭難者を見つけるための編成を組んでいるのだなと思われました。おのおのの車から降りたと思しき、精強そうな消防署の方々がカラビナやらロープを身に着け、これから始まる捜索に備えておられます。我々は下から登ってきたらからか、何も聞かれることもなく、こちらから尋ねるのも興味本位に過ぎないので、こんにちは・・・と普通の挨拶をし、小さくお気をつけ下さい・・・などと言いつつすれ違います。事態のほどはなんとなく知っているので、何か気づいたら帰りに申し伝えよう。最もそれより前に遭難者の発見されることを望みます。と心の中でつぶやきます。
林道歩きは一分ほどで、すぐに登山道に戻ることが出来、遭難者のことを気にしつつ、自然林と植林帯の交錯する登山道を逍遥しつつ、更に歩くこと一時間程でしょうか、栃尾辻に到着です。
避難小屋と聞いていたので、あれ?この建物がそうなのかな?林業者さんの一服スペース??といった簡素な小屋です。さりとて、急な風雨の際は助かるのでありましょうなあと隊長の言。なるほど。
このあたりから再度ヘリの飛ぶ音が鳴り始め、今までとは逆、稜線の西側から聞こえるようになってきました。なるほど、捜索範囲を広げたのであるなあ・・・見つかってないのだな、しかし、山の反対側も捜索するとなるとこれは大変であるなあ・・・老婆心ながら考えます。
さて、この栃尾辻からしばらくがこの山行で最も景色が良く、自然林の美しい、通称天女の舞と呼ばれる辺りであると調べてあったので、ワクワクしながら歩を進めます。栃尾辻から15分ほどでしょうか、尾根道を遮るように虎ロープが渡されており、右にやや下る巻き道への誘導がなされている地点にたどり着きました。虎ロープの渡し方がなんとも緊張感のない感じで、高さも中途半端なものであったので、行っても良いのかな?アカンのかな?とややも違和感を抱きながらもやや下りの巻き道を選択します。虎ロープからトラバース的に斜面を20分も歩いた頃でしょうか、事前調べによれば栃尾辻から15分もすれば天女の頂に向かう分岐があるとなっていたし、地図の等高線からしても、これほどトラバースをしているのもおかしいなと感じ始め、隊長にどうもおかしいです。栃尾辻から30分ほど歩いているのに、分岐に達しないこと、天女の頂に向かう道中、いわゆる天女の舞と言われるあたりは稜線上で見晴らしが良いはずであるのに、西方面しかひらけてないので、どうも間違っているかもしれませんと伝えると、隊長はふむ、なら戻りましょうと素早く判断。来た道を戻り、やはり虎ロープのところまで戻ったところで、隊長、やはりこの虎ロープから先が天女の舞であると私は思います。さりながら、虎ロープが張られているのは目前の事実。いかがいたしますか?と尋ねると、隊長はそうなのかもしれないけど、やはり虎ロープを越えていくのは良くない。やめとこう。と大変モラルある発言。確かに、虎ロープをわかっていて越えて何かあったら情けないし、大迷惑をかける。ここは天女の舞も頂もあきらめよう。少し騒がしい(ヘリで)ところもあったけど、いい道を楽しく歩けたのだから、良しとしよう。ではここを我々の天女の頂としましょう。とテレビで天国じじい氏が言うようなことを言って、虎ロープの下でお昼としました。
いつものようにお昼はパンを食べるだけの我々は、やや冷えるのでダウンを着たり、フリースを着たりしながら手早く昼休憩を済ませ、来た道を戻ります。来た道であるのに帰りに林業者用の杣道のようなものに入り込んでしまい、隊長のどうもおかしい、引き返そうという好判断もあって小さなタイムロス(30分弱)、体力ロスでルートに復帰することがありました。このように記すと何もなく上手に引き返した様に見えますが、その実は重大インシデントを起こしておりました。
引き返そうと判断したその道すがら、私が自らの判断ミスでルートを間違ってしまった恥ずかしさもあって、なるだけ早く正規のルートに戻ろう、恥を雪ごうと思ってしまいました。早足で正規のルートに戻ろうとするあまり、隊長との距離が開きすぎてしまい、ハッと気がつくと隊長がいません。見えません。やばい!隊長、別の方向に行ってしまったら大変だ!!と超早足で戻ります。そこで、おーい!隊長〜〜!!と呼びかけると10メートルほど上の姿が見えないところから返事が聞こえてくる感じ。斜面を直登し、なんとか隊長を発見。危ないところだった。もしもっと隊長がついてきてないことに気がつくのが遅れ、もっと離れた違う道を隊長が進んでいたら、お互いがお互いを探す内にますます迷ってしまうという、最悪な悪循環に陥り、それこそ遭難していたかもしれない。まさに重大インシデントでありました。私は正直にスミマセン、判断ミスした恥ずかしさもあって、早足で歩き、後ろを見ずに進んでおりました。距離が開きすぎました。危ないところでした。これからは間違って引き返すときもゆっくりにします。それでも何かの折に私とはぐれてしまったら、その場を動かないで下さい。必ず来ますから。と伝え、今後の山登りの注意事項、約束事としました。
危うく別件の遭難を作りそうになったものの標識のある正規ルートにもどり、その後林道出合において待機中と思しき消防の皆さんとすれ違い、目礼し、来た道をゆるゆると下って(案外長かった)、天川村役場まで戻りました。役場においても待機中の消防、警察の方がおられました。お勤めお疲れ様です。
我々はその後お気に入りの 天の川温泉に浸かり、体をほぐした後、無事に゙帰路につきました。
その後、翌々火曜日に遭難者は発見されたそうです。気を失っておられたとの由、そうなると、ヘリが飛んできても気がつかないわけで、必然、捜索隊が足で探し出したのだと思うと、本当に頭が下がります。我々は捜索隊のお世話にならぬよう、なお一層気を引き締めて登山を楽しみたいと思います。