歩き出して30分くらいたったでしょうか、4時半を過ぎた辺りから夜明けの明るさが陰鬱な湿地帯の中にも差し込んで来るようになってきました。やがて兵馬の平と呼ばれるひらけた場所に出ました。曙光の中に遥かな山並が見られます。
あれは朝日岳だろうかね?等と言いつつ木道の上を歩きます。下りの森の中の黒っぽく見える木道と違い、陽の当たる場所の木道は白っぽく見え、滑ることもさほどありません。さりながらこのあたりの木道から粗めの紙やすりのような滑り止めが施されており、歩きやすくなっております。先程の黒っぽい木道にしてくれたらいいのに・・・と思わなくもないですが、陽の当たらない木道はそういった物を付けたところで、ネジも外れやすく、ただいたずらに木道を弱らせるだけなのかもしれないと、一人納得します。さらに明るさを増した穏やかな道を歩くこと1時間半強で2つの鉄橋を越え、本格的に朝日岳の登りのスタートです。ここまで蓮華温泉ロッジから標高で300メートルほど下ったようです。すっかり明るくなってなんだか気分も晴れやかです。やっぱり山登りは登りだよな!そして明るいってすばらしい!と隊長と話します。 お盆の頃の大雨の影響なのか、道の所々で渡渉というか、沢のようになったところを渡らなければなりませんでした。これからの長い道のりを考えたら靴を濡らすのは絶対に避けたい。さりとて転んで手足を傷めるのも良くないので慎重に歩きます。思いの外の出来事でペースダウンが続きました。それでも黙々と歩きます。 花園三角点と言われる辺りから高い山に来たなと感じられる山容になってきました。年一の森林限界超えはもうすぐです。関東の人は我々が比良山系に行くくらいの感覚で八ヶ岳とか表銀座とか行くらしいで〜ええな〜しょっちゅう森林限界超えられるやん。うらやましいな〜などと詮無いことを話しつつ歩きます。朝日小屋の予約のとき(7月14日)に、小屋のおかみさんが皆さん熱中症気味になって来られるから、絶対早く出てね!5時と言わず4時ね!と念押しされていたのですが、幸い少し曇っており、日差しも柔らかく、気温も程よく、いやもうラッキーだなあと感じました。予約の頃に比べたら、わずかに秋に向かって気候が進んでいるのかもしれません。熱中症対策として、白い化繊のピタピタ長袖とポロシャツを着込んで、直射日光を跳ね返すのだぜ!と思っていたのですが、思惑外れです。さらに花園三角点から上、吹上のコルと呼ばれる辺りは名前の通り、風が吹き上げ、標高も相まって霧の中で強い風に吹かれて、やや寒いくらいでした。
朝日岳頂上直下の残雪。たくさん残っているものです。残雪の上を通り過ぎた風は冷たく、高山の雰囲気が味わえました。””白馬大雪渓ってこんなんかな?””と隊長の弁。もっとスゴイんでしょうね。いつか行きましょうね。今回は白馬岳〜朝日岳のマイナールートのしかも逆周りです。かの有名な白馬岳に初登行であるのに、何だか勝手口からこっそり入っていくような感じで、この点はちょっとしくじったかな?やはり初めてなら王道の大雪渓、もしくは白馬三山縦走にすべきだったかしらん・・・?と思いました。さりながら、今回のルート選択には朝日岳をメインにする理由があったからです。
去年富士山登行を成功できた我々は、さて次の遠征はどうしたら良いだろうと思案しておりました。富士山御殿場ルートを登るぞ!!と意気込むこと三カ年、予定の盆明けの休みに台風の影響で他の山に急遽変更することが続き、やっと登れた後はもうどの山を選択してもいいぞ、行きたい山を選べるのだ!と嬉しくなっていたのですが、どこでも良しとなると、何だかどこも行きたく、さりとてそこに決めるしっかりとした理由もなく、どうしたものかと思っておりました。そんなある日、隊長が””朝日小屋のご飯はおいしいらしいぞ〜””と提案してきたのです。しかし、山小屋のご飯は(空腹も相まって)だいたい旨いぜ?ありがたく美味しくいただけるぜ??と私は考えていたのです。もっとも、この世で一番美味い飯を出す宿は山小屋である(食べるまで苦労するし、空腹という最高の調味料がふんだん)というのが私の持論であったので、山小屋でマジで美味い飯を出すというなら、そりゃ相当な事だぜ?ある意味世界一の飯なんじゃない?と興味が惹かれたのです。調べてみると、朝日小屋はなかなか手の込んだメニューです。確かにボリューム充分なお肉を振る舞う山小屋もあろうけど、こんなに小鉢がたくさん、それに熱々の鍋焼きのラーメンが食べられるなんて他にないかも??何たる力の入れ様!これは行かざなるまい!しかしそこでも疑い深く、他にも凝ったご飯を出すとこあるんじゃない?と調査を深めたのです。そうすると、高瀬ダム(裏銀座)の船窪小屋もご飯がスゴイらしいとの噂が。船窪小屋の名物おかみさんが心のこもった美味しいご飯を出していたことがわかったのですが、気づいたときにはもう既に勇退されており、次の代に道を譲っておられる。美味しいご飯を出すというスピリッツは継承されたみたいでも、やはり名物おかみさんのご飯を食べてみたかったな・・・と感じました。その時、そうか!ご飯の美味しさも食べられるときに食べとかないと、伝統は失われることもある!?ましてやアクセスの遠い朝日小屋でおかみさんのこだわりご飯を食べるなら早く行った方が良い!!我々が若いうちに!おかみさんがバリバリのうちに!!山は逃げないけど、飯は逃げるかもや!!とにわかに心が定まり、隊長に提案し、了承を得て、大まかなプランと日程、予約に動く段取りを定めたのです。
そして予約の時に念押しされたようにちゃんと4時に蓮華温泉を出て、下って登って、長い道のりを経てようやく一日目のピーク、朝日岳に到着です。すでに9時間歩いていました。だいぶ疲れてきておりました。昨年の富士山でも御殿場口からその日のうちに山頂を踏み、下って赤岩八合館まで戻る10時間超えの山行を経験していたので、一日目、朝日小屋までは行けるだろう。翌日7時間くらいまでならまあなんとか元気に行けるだろう。しかしそれを超える時間となると、今まで山の中で一泊、下りは7時間未満の経験しかないから、心配だな。であるから、一日目に朝日小屋泊まりを計画したんだよな。白馬→朝日の行程にすると、天候・体調の悪化、疲労の蓄積などで諦めて朝日まで行かない人が結構いると聞いていたから、とにもかくにも朝日岳・朝日小屋に行くというのを最優先にしたプランなんだよな・・・と自分の考えを再確認し、気持ちを鼓舞します。これでいいのだ!と 朝日岳山頂を後にするとすぐに朝日小屋の赤い屋根が見えます。山小屋の屋根は赤いのがいいね、カワイイし、分かりやすいよね。と隊長。小屋が見えたら元気回復の模様です。2時半前に小屋に到着、小屋の受付はおかみさんでした。ウエルカムドリンクを下さり、酸味とほのかな甘味がおいしかったです。そして、蓮華温泉を何時に出ました?と聞かれ、はい、念押しされたように4時に出ました!と答えると、あ〜それなら明日も4時出発ね!とビシっと言われました。なるほど、ここまで9時間半なら明日もそれくらいはかかるというチェックだったのね・・・念押しね・・・と思いました。さすがは遭難対策協議会の腕章をつけてるだけのことはあります。登山者の実力を見極め、正しい行動予定を教えてくださるのね・・・と納得します。
部屋は相部屋。我々を入れて5人一部屋。全員が蓮華温泉から朝日岳、そして翌日白馬山荘泊の予定なので、寝る時間も起きる時間もそう差異がないということなのでしょう。さすがの采配です。
待望の晩御飯。この日の宿泊者は皆さん優秀で、3時半くらいには全員小屋に到着していたそうです。それによって、宿泊者全員で食前酒のワインで乾杯しました。(写真は飲んだ後)
富山名物の昆布締め、そしておかみさん手作りのホタルイカの沖漬け。抜群の味染みのふろふき大根。熱々の鍋焼きラーメン。(替え玉一回可)お豆腐もおいしゅうございました。替え玉もさせていただき、ごはんもおかわりし、大満足でありました。
翌朝の朝ごはんとお昼の行動食用の混ぜご飯と笹寿司の販売もあり、私は計3つの混ぜご飯を購入しました。
そんな素敵な朝日小屋でありましたが、不思議な点もありました。山小屋によくある、談話室、食堂の開放がなかったのです。少し寒さを感じながら、外のテーブルで隊長は一杯、温かいのをやっておられました。私も少し分けてもらって、体と心の緊張を和らげ、早いうちに就寝としました。あんまり飲むといびきをかきやすくなるのと、眠りが浅くなるし筋肉疲労も回復が悪くなるというので、ほんの少しだけ飲みました。
その③につづく
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