幸い私自身もそれほどいびきをかくこともなく(隊長談)、同室の皆さんも静かで充分に休息を取ることが出来、深夜2時頃から小屋全体に朝の雰囲気が起こりだしても、まあそうだよね、7時に寝たらそうなるよね、と納得の気分です。これだけ早く動き出す人が多いならそりゃ朝ごはんの段取り、弁当の段取りも無理っぽいよね、前日に販売して正解だわ。と感じます。なるほど、談話室やら食堂の開放が無いのもそのせいだな。談話室があったらしつこく飲む人もいるだろうし、どうしたって楽しく会話が盛り上がったらうるさくもなるだろうし、寝るのが遅くなる人も出れば、早い就寝を邪魔されたと感じる人も出ますわね。しっかりとした栄養摂取と休養を登山者にもたらし、無事に歩き通せることにとことん重きをおいた小屋の運営。これが朝日小屋のホスピタリティーなんだな。と感心します。そう気づけば弁当でなく小さめのお寿司と軽い混ぜご飯の販売も理に適っています。朝からそんなに食べられないという人にしたら、食べ切れない弁当はただの荷物だし、たくさん食べたい人からしたら簡単な弁当一つでは物足りない。だからおのおのの体に即した朝食、行動食をうまく見繕ってくださいよということなのでしょう。
開放されている食堂にて混ぜご飯の一つをいただき、ポットに用意されているお澄ましも飲んで、忘れ物がないか確認し、身支度済ませます。そうすれば、愛すべき小屋から出立です。
朝4時の暁闇の中をヘッドライトで歩きます。よく寝られたかどうかと歩きながら話していたら、なんと、隊長は夜にこっそり星を見に外へ出たそうです。朝日小屋のホスピタリティーを無下にするな!と思わなくもないですが、星を見たくて山に来てるんだ!と常々仰るので、黙っておきます。しんどなっても知らんで。
(遥か彼方に思える白馬岳。こんなん歩けるん??と思うけど、歩くしかないし、歩きに来たのです。)
(堂々たる雪倉岳)
雪倉岳へ道のりはまず水平道と呼ばれる、朝日岳をトラバースする道からスタートです。水平道というものの、起伏もしっかりあるし、先日の大雨の名残か登山道を越水する箇所も何度もあり、さらには小さめの滝のようになっている所もあって、なかなかの苦労です。まして薄暗い中、濡れた石の上を歩くのは気疲れしました。予定時間を大幅に超過して水平道を歩き終え、雪倉岳への登りです。今回の登行プランを考えるまでは名前を知らなかった雪倉岳ですが、堂々たる佇まいで、さすがは日本200名山の一つであるなと感じさせられます。森林限界を超えた稜線歩きは強い風が吹き付け、寒いくらいでした。もっとも暑さで熱中症になることを思えば、寒いくらい大歓迎です。二日目も白い化繊のピタピタ長袖とポロシャツの出で立ちで(着替えております)、日光の温かみを感じにくいのは残念でしたが、仕方ありません。登行二日目の筋肉痛もいつもとは違うものの、ツラいというほどではなく、歩けそうです。小屋から歩いて4時間半強くらいたったころでしょうか、霧も収まってきて、高い山独特の美しく透き通るような朝の陽射しが体を照らします。ああ、この陽射しが一年の間に体に溜まった良くないものを浄化してくれるような気がする。きっとそうだ・・・などと感じます。山の秘蹟であり、神秘であります。ついでに筋肉痛も無くなれ!!これは邪念であります。
(雪倉岳の頂上辺り。素晴らしい景色。写真が下手ですみません)
雪倉岳の頂上から向かう白馬岳を遠望すればまだまだ道のりは長い、果てしないと思えるものの、ここまで歩いてきたのだから頑張れる。しかし、一体どれが白馬のてっぺんなんだろね?あのギザギザしたやつかしら?名前からしたらあの穏やかそうな丸い感じのやつがてっぺんでない?その方が近くていいねえなどと話します。
(後になって思えば右端の雲に隠れているピークが白馬岳と思われます。ギザギザわかりにくく残念)
稜線の道を下ること30分ほどで鞍部にある雪倉岳の避難小屋です。トイレがあるということで、様子を見てみたのですが、ちょっと我慢できるならやめとこうという感じ。朝日小屋を出立して6時間ほど経っているし、そろそろお腹も空いたねということで、小屋の外周の陽の当たるところで早めの昼ご飯とします。混ぜご飯2つと持参していた魚肉ソーセージを食べます。
さて、ここからがこの山行の最高標高の白馬岳へ登りのスタートです。遠くに見える長く細い登りの道を黙々と歩む先行する登山者たちは、何やら修行や苦行に敢えて挑む宗教者のようにも思えます。我々も後の人にはそう見えるのだろうか・・・一人つぶやき、がれた稜線道を赤ペンキの丸印をたどるように登ります。ふたたび強い風が吹き付け、なれぬ二日連続の長時間の山歩きに疲れた体を揺るがします。隊長も流石に足取りに疲れが見え始め、三歩歩いては大きく息を吐き、五歩に一度はヤッ!とかフッ!とか気合を発して歩いています。頑張れ〜!もう少しだぞ〜!などと励ましつつ、ついに白馬縦走の稜線、三国境に至りました。さすがメジャー山岳のメジャールート、一気に人が増えた感じです。先程までの難行苦行のムードではなく、スポーツライクな登山のムードです。
三国境のあたり。天気良くて助かったなと思います。隊長の日頃の行いのおかげです。
しかし、ここからも山頂、山荘までは1時間以上の道のり。何度もこれが山頂だろ!違った!今度こそてっぺんやろ!まただまされた!!という、フェイク山頂の繰り返しで、精神的に応えたのか、流石の隊長もめずらしく道の脇にへたりこんでしまいます。何人かの登山者に大丈夫??みたいな顔で見られます。大丈夫です。ちょっと疲れて休憩です。邪魔してすみません!と詫びます。やはり二日連続の9時間超えの登行は無謀だったのか・・・隊長の顔に深い疲労の色が見えます。頑張ってくれ、もう少し。ペースダウンしながらも、何とか白馬岳山頂にたどり着きました。
それでも元気に記念撮影。あとは15分ほど下れば白馬山荘です。
山荘が見えて元気を取り戻した隊長。赤い屋根カワイイ!たくさんある!とお喜びです。白馬山荘は日本最大級の山小屋だそうで、建物の多さも納得です。
無事に山荘の受付を済ませ、あてがわれたスペース(大部屋相部屋)に荷物を置き、隣の人との間の布団一式は使わないのかな?それだったらいいね、逆の方も一式分あいてるのかも。このまま空いたままでお願い!と思います。
白馬山荘はなんと展望レストランがあり、ケーキセットやワインもいただけます。晩御飯は第2スタートの巡りとなったので、時間があるし、ケーキセットを食べてみよう。そんなこと中々山小屋で出来ないよね。となりました。コーヒーの滋味とケーキの甘みが疲れた体と心を癒やしてくれます。ビールを飲みたいのは山々でありましたが、やはり晩御飯最優先、ここは我慢だとゆっくりケーキを頂き、かなりのんびりさせてもらいました。やはり大きい山小屋には大きい山小屋の良さがあるねえ・・・などと言って過ごしました。
晩御飯は鶏のクリーム煮がメインで、しっかりいただきました。私は疲れ果てても食事は喉を通るタイプなのでバクバク食べましたが、隊長は疲れ果てるとあまり食べられなくなるタイプなので心配しましたが、ケーキが食欲の呼び水となったのか、そこそこ食べておられました。一安心です。しかし、少し休むと足腰が今まで経験のない疲れを感じさせ、明日のラスト、蓮華温泉への下りの道は大丈夫であろうか?と少し不安になりました。
食後は大食堂からまたも展望レストランに移動。相部屋の少し気まずい感じが苦手の夫婦。
ここまでの無事を祝って乾杯しようとミニボトルの白ワインを購入したら、グラス2つ出してくれました。これもメジャー級山小屋のホスピタリティーですね。
(ワイン持ってきたよ〜といって席に戻ったら、慌てて飲んでた缶ビールを飲み干そうとする隊長。元気で何より。)
その④(最後)につづく