大石茶屋さんのご厚意で昨日の服と昨夜の寝巻などを段ボールに入れて預かってもらえて、荷物を軽くすることが出来ました。元気に行ってきます!と声をかけてスタートです。
五合目から先は樹木はなく、地に這うように咲いたアザミのお化けのような花とタデのような草がそこかしこに生えているばかりです。それもそのはず、黒いつぶつぶの軽石のようなものが地表面を厚く覆っており、植物にとって栄養も無さそうだし、根っこの伸ばし甲斐も無いような大地です。
歩き出してしばらくして、これはもう普段の山道とは全然異なるなと感じだしました。一歩の歩幅を50cmとしたら、一歩ごとにその半分はズルっと軸足の方にずり下がるのです。黒い小さな軽石の積み重なりの様なものを歩いていくわけで、踏み込んだ足裏にも支える軸足の足裏にもしっかりとした支えがありません。何というパワーロス。悲しき徒労感。
しかし天候は我々に味方し、晴れ渡った道中のはるかはるか遠くではあるけれども、新六合目・半蔵坊とおぼしき建物を見ることが出来ました。何かが見えるというのが大いに心の支えとなるもので、ちっとも進んでいる気分にならない変化のない道でも、少しづづ近づいてくる何かというものは目標となり、心を応援してくれました。
そうこうしていると、いつもの山のように歩き出してしばらくしたタイミングで隊長が”大丈夫?しんどくない?”と聞いてきました。”大丈夫。昨日は(同部屋宿泊の)おっさんの(猛烈ないびきの)せいでさっぱり寝付けなかったけど、9時くらいから横になってたんだし、体力はあると思う。で、あんたは眠れたんかいな?”と返事しました。”私は全然気にならなかったし、よく寝られたよ。大丈夫。元気いっぱい”と隊長は大変頼もしい。肝が大きい。天候の良さと隊長の頼もしさを考えれば、この先も上手く行くかもしれない。さりとて、急な天候の悪化、突然訪れるという高山病もある、気は抜けない。”じゃあ気を付けて気長に行こか。それでも急に頭が痛くなったり、しんどくなったら気兼ねなく言お。それで下りるとなっても恨みっこなしで。” ”そやな” 車での道のりでした約束を確認しあいます。
広々とした御殿場ルートの道は登る人と下る人の道が違うせいもあり、道を譲ったり、譲られたりということがありません。足の遅い我々は道を譲るのは良いにせよ、譲られて待ってもらうと急がないと悪いので、早足にならざるを得ず、その繰り返しがあるとテキメン疲れてしまいます。その点、このルートは全くの自分たちのペースで歩くことが出来て、よい感じでした。さえぎるもののない直射日光の下、いったいどれだけ暑いのだろう?どれほど日焼けするのだろう?という心配もしていましたが、標高のおかげか思いのほか涼しく、じんわり汗ばむ程度で日焼け止めが流れ落ちるということもなく、好調です。となると、怖いのは高山病。高山病対策は薄い空気に慣れておくこと、急に標高をあげないこと、水をたくさん飲むこと、深呼吸をすること、と調べておりました。五合目の茶屋に泊まり、1500メートルからゆっくりと標高を上げていき、500ミリのペットボトル2本を持ち消費し、半蔵坊で補給、その先の小屋でも補給、そして赤岩八合館でチェックインとプランは慎重だし。日頃からランニングもやってきた。心肺機能も大丈夫と思う。行けるはず。そもそもここ4年も最長、上級者向けといわれる御殿場ルートを登るべく用意してきた。しかし商売柄、唯一長期休暇の取れるお盆明けを狙うかのように台風に邪魔をされてきた。もう登らせてもらっていいはずだ。そんなことを思いながらただただ一歩また一歩踏みしめます。(半分滑ります)。
やがて昨晩の茶屋のご主人の言っていた登り下りの道が交差する場所が訪れました。大砂走と言われる下りの道との交差です。ご主人は大砂走の方に進んではならぬと言っていたんだな。ここで巻いていくように右の勾配の低い道を行くのだな。わかった。ここがポイントだ。うっかり直登の大砂走に行くと一歩ごとの半滑りが全滑りになって、歩めど歩めどどうにもならんということだな。なるほどなるほど。補給に飲み物を買い求めようと思っていた半蔵坊も随分と近づいてきている。茶屋のご主人の言った ”行けるから、マジで” が思い出されます。 ”行けそうだ、マジで” 昨晩の寝不足も忘れて気力がみなぎります。
やがてここまでの道中の心の支えとなった半蔵坊まであとわずかとなりました。ここまでの道中で500ミリの麦茶を一本開けており、もうすぐ補給が出来るということで、プレゼントされたカルピスウォーターを開けました。 ”うううううまーい!!めっちゃうまい!”思わず隊長に報告です。
”どうしたん?” ”いや、もろたカルピス飲んでん、めえっちゃうまいで!!” ”そうなん?大将わかってる?” ”わかってはる!さすがや!”
正直、道中で補給するつもりでいたし、荷物になるかなあ?そもそも常温のカルピスウォーターっておいしく飲めるのん?と思っておりました。ところがここまでの道のりでも十分に疲れていたのか、甘さと酸っぱさのバランスが絶妙で、まさかこれほどおいしいとは!こんなにおいしいならここでグイーっと飲んだらもったいないわ。八合館まで少しづつ飲もう。と思い、取っておきました。やがて半蔵坊に着きました。

0 件のコメント:
コメントを投稿